以前は「10年のシミュレーションで儲かったモデルは、その後もずっと儲かるのでは?」と思ったものですが、長年の運用経験からそうなならないと思うようになりました。その4つの理由を説明します。
ずっと儲かるモデルがないと思う4つの理由
すべて経験から思うことです。
- システムが相場を変える
- マーケットのパワープレイヤーが変化していく
- パッシブファンドが従来の投資基準を破壊
- 儲かるモデルはレッドオーシャン化していく
以下、順番に説明して最後にまとめます。
システムが相場を変える
為替市場 【電話から電子トレード】
最初は為替ディーラーの経験です。山一證券の外国為替セクションでディーラーをやっていたのは1992年前後でまだ、銀行との専用電話でのディーリングしか行っておらず、為替はプロのマーケットであり、限られたプロしか為替のディーリングを行っていませんでした。扱う金額も大きく、1日に5円以上動くような相場も多くありました。
今ではネットFX業者と契約すれば誰でも為替ディーリングができる時代、システムによってプロから個人への市場になり、相場自体も大きく変化していきました。
具体的には、変動率(ボラティリティー)が極度に下がり、稼ぎにくくなったこと、感覚的には半分以下になったというイメージ。
東証の高速売買システム(ARROWHEAD) ハイ・フリクエンシー・トレード
私が銀行系証券の自己売買部門に移籍したのは2004年、そのころの部署には「すごく高い勝率で稼ぐデイトレーダー」が3人いました。10億くらいのポジション枠で年間で4億程度稼ぎ、勝率は7割を超えるという感じ。
彼らは、板画面の動きを追いながら、一瞬先の動きを瞬時に判断して一日の中で買いと売りを何回も繰り返すというトレードスタイル。この頃の東証システムはまだ遅くてそういったトレードが有効でした。
同時にトレード用APIを使った自動トレードもかなり上手く儲けていました。会社のトレードAPIは1億円くらいのコストを払い、情報ベンダーに独自に開発してもらったもの。十分採算はあってました。
そして2010年から稼働した東証の高速売買システムArrowHeadが全てを変えてしまいました。
- 板画面の動きが追いつけないほどの高速な約定
- 東証近くのサーバー(コロケーション)から注文する業者の圧倒的な有利な状況
- ハイ・フリクエンシー・トレードは装置産業化へ
という感じです。その結果、デイ・トレーダーはいなくなり、トレードAPIによる売買の有効性もなくなり、売買の時に逃げていくビットとオファーで、トレードコストも上がっていったという感じです。
マーケットのパワープレイヤーが変化していく
わかりやすく言うと、マーケットのパワープレイヤーが変化することで相場が変化したともいえます。
- 日本人中心から外国人中心の相場へ
銘柄評価の基準が欧米基準に変わっていきます(ROEを中心に考える評価とか) - 投信ファンドや年金ファンドからヘッジファンド中心の相場
早い意思決定やショートポジションが有効な相場に - アクティブファンドからパッシブファンド中心の相場
従来の割高・割安基準よりも、指数ウエートや需給を反映した銘柄選択に
日銀を初めとした指数ETF買いがパッシブファンドの投資を加速
2015年近辺から日銀の指数型ETFの買いが加速しました。2010年に5千億程度から始まった買いは、2015年には3兆円、2020年3月には上限12兆円まで引き上げられました。
2021年の2月時点で、簿価で40兆円弱で、日銀は日本株式の10%弱を保有しています。トレードインパクトとして相場に与える影響はとても大きく、3兆円で千円程度、日経平均を上昇させたと見積もっても、1万3千円ほど日経平均の上昇に影響を与えたといえます。
これは公的資金による相場上昇操作であり、公的相場操縦と解釈することもできます。忘れてならないは日銀に連動してGPIFなどの公的年金機関も同様なオペレーションをしていること。株価が下がって不幸になる人は少ないので、いいのではという意見も聞こえます。
「株を買うオーソドックスな理由は、その企業が成長するから投資するというもの」成長とは無関係に株を買う行為は、「成長する見込みのないものまで買う」ということであり、業績の見通しによる、割高・割安判断を否定する行為。
それが許されるなら、バブル崩壊の1990年代になぜ買わなかったのか?、ずっと買い続けるの? 買った分はどうするの? など考えるほどに悩ましいのですが、事実としてそうなってしまいました。
これが「2015年以前には有効だったロング・ショート戦略が効かなくなった大きな理由」としてありますし、その後の日銀のスタンスの変化が、またまた新たな相場を作り出す大きな要因になる事も予想できます。
儲かるモデルはレッドオーシャン化していく
これが起こった極端な例は2007年8月に起こったクオンツショックです。その頃はグロース・モメンタムを基準にしたファクターモデルが世界的なトレンドとなっていました。
クオンツファンドは儲かっているモデルをパターン分析で見つけて、そのパターンに合わせていくので、だんだん似たようなポジションを取るファンドが増えていき、クオンツショックで、その逆の動きが一気に起こったというわけです。
私が持っているポジションも一日で8シグマのマイナスとなりました。200万〜500万円程度の損益が続いていたポートフォリオで、いきなり4千万損するような感じ。なにが起こったんだ!という感じでした。
詳しく説明した文献としては
>>ザ・クオンツ 世界経済を破壊した天才たち スコット・パタースン
が有名です。これは一つの例であって
「儲かる状態から、だんだんその金額が減っていき、いきなり大きな損失をこうむる」という経験は5年以上やっている運用者なら誰しも経験しているはずです。
まとめ
マーケットが変動する4つの理由を考えると、それらをモデル化することによって、ずっと儲けられるモデルはできそうな気もしますが、実際に起こった4つの要因を事前に予想するのは困難です。
現実的には、マーケットのトレンドが大きく変動するたびに仕切り直して、モデルを再構成して望むことになるのです。一番大事なのは、退場を余儀なくされるほどの損をしないことですね。