衝撃のクオンツトレーダーWさん

Quants

銀行系証券会社での同僚トレーダーだったWさんはクオンツアナリスト出身、びっくりするようなリスクとリターンで他のトレーダーを圧倒、僕のクオンツ的な概念も大きくひっくり返されたのであった。

自分の転職と同時に異動してきたWさん

私が、その証券会社にインセンティブトレーダーとして転職したのは2005年くらい、Wさんは総合系列社員でクオンツ部署から自己売買部門に異動してきたところ。Wさんは大手N証券から転職してクオンツアナリストをしていた。

クオンツモデルだけど、リスクとリターンは桁違い

Wさんはクオンツ部署でファクターモデルを作り、自己売買部門で彼のモデルを執行していた。20%くらいのリターンを稼いで成績が良かったのと、本人の希望で自己売買部門に異動になった。

異動後も当然バスケットトレードによるモデル運用をするかと思いきや、自分の作ってる銘柄評価シートを見ながら手動で売買していた。日中の売買回転率がトレーダーの中で一番高く、かつ日計りディーリング的なこともしていた。

リスクはほぼマックス、例えば損失制限が5千万としたら、そのぎりぎりまでは損失がでそうなリスクを取る。普通のトレーダーは損失基準に抵触したとき、部長と協議したり、ポジションを減らすことを警戒してそこまでリスクは取らない。というか取れないって感じになる。

リターンはすごかった、一番驚いたのは25億のロング・ショートで、1日で1億損益を出したこと、1日で4%のリターン、そんなことがあり得るの? 彼は当初からいきなり神っていた。

部長も他のトレーダーもびっくり仰天

損益のブレが大きすぎて目が離せなかったのだろう、Wさんの隣の席には部長がいた。Wさんは席の間に本を積み上げ、更にその上にディスプレーを置き見事な壁を築いており、部長からのプレッシャーもまったく気にせず、いつも涼しい顔をしてトレードしていたのだった。

驚きなのは、大きく損してても、プラスになってもいつも涼しげ、更に自分から人に話しかけるようなタイプでなくいつも静かにしているので、部のPLモニターを見て初めて、「うわっ、すげー」てわかる感じだった。

引けたあと、歳の近いトレーダーがWさんのところに行って、その日のトレードを彼と話していたのだが、次々とわかる驚きのトレード、聞いてるトレーダーも「えっ、そんなのやってたのー、えっあれも?」みたいなことがよくあった。

Wさんのピカピカな経歴と人柄

Wさんは雪国育ち、小さい頃、寒すぎて死にそうになった経験があるという。そんな環境で育ったからやたら太い脳幹や大脳辺縁系が鍛えられて、動じない人格が出来上がったかな?っと勝手に分析したりした。

大学は旧帝大の物理学科、3年で特進卒業して大学院では理論物理を専攻していた、学歴もピカピカなのだけど、本人からは全くエリート意識的なものは感じられず、物静かで、言葉遣いも丁寧、汚い言葉を使うトレーダーには「汚い言葉は辞めてください」などと注意していた。皇族か!って感じでしたね。

インセンティブトレーダーへの転向

最初からインセンティブトレーダーへの転向を希望してたのだけど、成績良くて1年くらいで希望が通りました。ちなみにインセンティブトレーダーになると、ボーナスも実績に応じて青天井になるのですが、マイナスが続くと解雇されたりするので、損した時のプレッシャーはかなり大きくなります。

普通は負けられないという意識が強くなり、以前に比べて保守的なトレードになったりするものなのですが、Wさんの場合は変わらず、「与えら得たリスク枠の最大値を使い、リターンも最大を目指す」というスタイルは変わりませんでした。やっぱりメンタルでも人並みはずれていました。

確かインセンティブトレーダーになった1年めは、儲かったMaxから期末にかけて損して、利益を半分くらいにしたが、その次の年は30億程度のロング・ショートで30億程度の利益を上げるという信じられないリターンを上げた。30億を基準にすると100%のリターン。すごすぎる!

彼はその部署の歴史上、ダントツに儲けたトレーダーとなりました。

その後

2015年3月にその部署は閉鎖になってしまった。金融機関が自己勘定で大きなリスクを取ることを禁じたボルカールールの関係だ。会社に米資本が入っていたので、部署の成績はとても良かったのだが閉鎖になってしまったのだった。

Wさんは、その後2社を経て、今は大手ヘッジファンドでトレーダーをして活躍しています。

まとめ

  • Wさんは、「数%のリターンとリスクでシャープ・レシオを高める運用」という感じのクオンツ運用の概念を根本から破壊した。
  • リスク・リターンのトレードオフポイントが他の人達と違うだけで、彼が与えられたリスクの最大値に対して最大のリターンを実現したことは、スキルの高さによって成し遂げられたことで、とても合理的な行動だった。
  • Wさんは、「人間にとって不可欠な、マイナスになった場合に感じる恐怖による非合理的な行動」を行わなかった。メンタルが人と違っていた。
  • Wさんは損した時も儲かった時もいつもと同じで、礼儀正しく、物静か。Wさんはトレーダーに尊敬される存在だった。

ということで、人並みはずれたWさんは、僕に衝撃を与えたと同時に、いろいろなことを教えてくれたのでした。
ありがとうWさん。