クオンツトレーダー 【欲望と恐怖のメンタルコントロール】

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クオンツトレーダー 【欲望と恐怖のメンタルコントロール】

実際に損益が出る仕事をしていると、利益が多くでれば欲望もでるし、損が続けば恐怖も感じます。事後的に思うのはメンタルコントロールができれば、トレーダーとしてもっと快適に過ごせたし、それ以外のいろいろなことにも応用できたという事。

インセンティブトレーダーと社員トレーダー どちらも苦痛は同じ

稼いだ金額で報酬が決まるインセンティブトレーダーは、損がある程度続くと自然退場になります。トレーダーとして残っている人達は、それなりに儲かってきた人達です。なので彼らにとっての苦痛は、儲かっていた状態から、儲からなくなったり、利益が減っていく状態です。

一方、自己売買部門にはインセンティブトレーダー以外に普通の社員として所属しているトレーダーもいます、彼らは人事異動になるまで、損をしていても所属し続けます。

真面目すぎてうつ病になるトレーダー

私が、銀行系証券の自己売買部門に入ったばかりの時、一般社員トレーダーの中ででずっと損しているトレーダーがいて、彼はうつ病になり入院してしまいました。

神経質でまじめな人にとって、損失が長く続くことはとても苦痛です。彼はシステムが非常に得意で、トレード以外の業務は完璧にこなしており、優秀なだけに、自分でコントロールできないトレードに強いストレスを感じていたと推察します。

自己売買部門では、そうやって数人に一人は病んでいく人がでてきます。トレーダーにとっては、一歩間違えば、うつ病で入院してしまうほど、メンタル管理は大事なのです。

トレーダーにとっての欲望

自分にとっての欲望

私は「自分のクオンツスキルがリアルにプラスの損益として反映されること」に大きな価値を感じていたので、ぶっちゃけ、あまり欲望というものは感じたことがありません。

強いて言えば、ファンドマネージャーから証券会社の自己売買部門に転職して、自分が作ったモデルのロング・ショートポジションがかなり好調な成績を叩き出した時、ちょっと欲望を感じたかもしれません。

ファンドマネージャ時代からあまりマイナス損益の経験がなかった事もあり、「どんどんポジションが大きくなり、ボーナスも沢山もらい、サラリーマン時代の何倍もの年収を得る未来」を明確にイメージしたりしました。

「良い状態が、更に良くなり、まだまだ続く状態」への期待です。自分にとってはそれが欲望だったといえます。ただし、その後次第に上手くいかなくなり、その欲望は苦痛へと変わっていったのでした。

お金の使い方という基準でみた欲望

自分の欲望はそんなものですが、お金の使い方という尺度で測れば、稼いだ時の消費の仕方によって、トレーダーごとに大きく違いがでてきます。簡単にいうと、浪費型の人、節税投資型、堅実型の人にわかれます。

個人的には「浪費型の人って大丈夫なんだろうか?先々不安ってないのかな?」なんて思ったものですが、浪費を働く為のエネルギーに変えるのが上手な人が多く、浪費したからといって、後々困っている人はあまり知りません。

結局、トレーダーそれぞれの性格と価値観の問題に落ち着つく感じ。

実際、欲望をその人のやる気指数と解釈すれば、あればあるほど良いものかもしれません。欲望は否定しないほうが良いようです。

損することの恐怖

急に儲からなくなった、東日本大震災後

壊滅的に損したことはないということもあり、わりと長くクオンツ運用(20年弱)の仕事を続けられたのですが、「来年もトレーダーでいられるかな?」くらいに思ったことは何度もあります。その中でも、一番忘れられないのは、東日本大震災後の相場です。

東日本大震災の3月11日前までは、その年度の損益はわりと良くて、「最後にもうひと儲け」というような気分だったのですが、この震災で私と似たようなポジションを持つプレーヤーが一斉にリスクオフでポジションを閉じてきたので、一時的にすごく大きくマイナスになりました。

一日で3%程度マイナスになった日は、何も考えられないくらいに打ちのめされましたが、なんとか月末にかけてほぼ回復しました。ただし4月から極度に儲からなくなってしまいました。

負のシャープ・レシオ最大に

4月からの相場は詳しく覚えていないのですが、言葉が変なんですけど「一定のペースで効率的に損する」ようになったという感じ。「朝、今日はいい感じと思ったら、少しずつ失速、引けにかけて少しマイナス」みたいな日々が多く続きました。

私なりの解釈だと、「自分と良く似たポジションの人達が、震災後月末にかけて損益を回復させたのだけど、完全に相場の潮目が代わり、コンスタントにポジションをアンワインドする状況になった」という感じでしょうか。

そんな経験は数年前のクオンツショックの時にあったので、経験済みではあったのですが、毎日少しずつ損していく感じはかなり精神的にきます。

逆境状態で起こるいろいろなこと

結局、震災後の次の期はぎりぎりプラス程度の成績で終わってしまいました。その頃よく思ったのは

  • このままずっとトレーダーできるかな、トレーダー辞めてもやっていけるかな?という未来への不安
  • 夜の眠りが浅くなり、朝がた寝汗をかく
  • 相場を朝からずっと見ているので、一日じゅう逆に動く日の苦痛の大きさ
  • この仕事って社会の役に立つのかな?って考える
  • 若いトレーダーが儲かっていると、世代交代か? と考えたりする

などです。苦しかったころ「マイナスは全てを奪う」って曲の歌詞ならすぐ書けそうだなって思ったりしたもんです。

でも不思議なもので、その頃は結構苦しくとも苦境の時期を通りこすと、意外とキレイに忘れたりします。

その頃、なんと20日連続でマイナスになった事があったのですが、すっかり数年間忘れており、同僚のトレーダーと久しぶりに会ったときに、その事を言われて思い出したりです。

人間の脳っていうのは良くできていて、忘れたほうが良いことは自然に忘れるようにできているようです。

損してもぶれないトレーダー

儲かっても損してもブレないトレーダーWさん

私の場合には、損した時のプレッシャーを大きく感じてしまい、反転時のポジションのリスク量が小さすぎたりしたものですが、損してもそれほどリスク特性を変えず、ひるまないトレーダーもいました。

正しく、冷静な相場判断さえできていれば、小さすぎるリスクのポジションにはなりません。ただ、それには強いメンタルが必要になりますし、「冷静な相場判断」という点で個人の能力が大きく出てきます。

私が知る限りそれができていたトレーダーは「衝撃のクオンツトレーダーWさん」で紹介したWさんくらい。彼はメンタルも筋金入りのトレーダーで。成績もすごかったのですが、損した時に相場に立ち向かう彼の姿は、本当にすごいものでした。

信念を持ち続けるためのメンタル

「逆境の時にも、しっかりとした信念を持つ」そういう状態にメンタルを持ってこれたら、トレーダーとしてもう一段上に行けるかもしれないと思ったものです。

けれど、損したら普通に将来に対して不安になりますし、駄目な時にどうするかという考えるのも現実的ですし、損して疲れたあとに、夜の作業をすることはメンタル的にも困難でした。

ただ、逆境の時にどれだけメンタルを平常に保って、次の一手が打てる状態に持っていければ、かなりトレーダー生活が快適になるわけで、そのコントロール方法ってあるのかがずっと自分の中での課題として持っていました。

Youtubeで偶然みた「メンタリスト DaiGo」 さんの衝撃

夜、なんとなく見てたYoutubeのDaiGoさんの動画、自分のメンタルコントロールの悩みを解決するようなことを、わかりやすく解説しており、とても惹き込まれていきました。10年前から聞きたかったという感じです。

どまん中の悩みを解決する理論を紹介

いろいろな話題が面白い上に、論文などに裏付けされた理論を紹介しており、客観的で実証的なところにも惹かれました。あと話題の豊富さがすごくて、聞いてるだけで脳が気持ちいい感じなんですよね。

自分がまず惹かれたのは、「精神力の強さは先天的なものだはなくて、後天的に作りあげることができる」といった内容です。凡人の自分でも尊敬するWさんのようになれる?

あと、うつ病を脳の病気の一部として解説していた部分や、それを防ぐためには、こうすれば良いという対処法までセットにした解説にもかなり感銘を受けました。

とにかくほぼ全てに気づきがあるのですが、困ってしまうのは、わかりやすい言葉なので中途半端に納得してしまい、時間がたつと忘れてしまう事です。

その対処法として、DaiGoさんの本をキンドルで購入したあと、自分が実践できそうな内容にひたすらマーカーを引いていき、そのマーカーリストを、昼休みとか朝の通勤電車などスマホでまめに確認するようにしました。

実際に実践してみて

とにかく実践してみようということで、自分のできる範囲でいろいろやっています。これからもいろいろ実践しなくてはならないのですが、今やっている事は

  • ToDoアプリへのタスク入力と、その実行、実行したあとのチェック
  • 良質な睡眠を取るためにできること(照明、短い昼寝、寝る前のエクスプレッシングライティング)
  • 筋トレ
  • 行動を増やして試行回数を増やす
  • 瞑想(やってみたけど継続が難しい、これからの課題)

など、最初はトレーダーとしてのメンタルを鍛える目的だったのですが、最近ではもっと大きなところで影響が出ています。

まとめ と参考文献

トレーダーという職業はスキルの重要さとは別に、「逆境期間にどれだけめげずに前向きにに過ごすか」も大事です。そのときに大事になるのがメンタルコントロール、これさえできればトレーダーにとって、かなり大きな武器になります。

メンタルの強さは先天的なもので、鍛えることが難しいと自分では思っていましたが、DaiGoさんの紹介するメンタルコントロール理論を勉強し実践することで、かなりコントロールできると確信できました。

最後に、DaiGoさん関連本の中で特に自分が参考にしている本を紹介しておきます。

自分を操り、不安をなくす 究極のマインドフルネス DaiGo
ストレスを操るメンタル強化術 DaiGo
最高の体調 鈴木 祐

トレーダーでなくても役にたちますよ。